No Fear Evil

 ジェームス・ウォンの『インシディアス』を観る。
 『狼の死刑宣告』の端正な映画力を見てかなり見直した同氏の作品であるが、矢張りこの監督に無指向性の映画愛はない事を確認するだけに終わった。もう、この監督のホラー作品は観ない事に決めた。
 一人として深く描写されない登場人物、何ら新しい手触りのない恐怖イメージ。自分とパラノーマル〜の監督による作品だったら、こんな要素を入れておけばいいだろう・・・的な割り切り。勿論サム・ライミにも期待される物を抜け目なく織り込むしたたかさはあったけれども、ウォンとライミの違いは、それを「お楽しみ」として観客に提示する商売っ気(何なら、自己顕示欲と言ってもいい)があるかどうかだ。
 冗漫でぎくしゃくしたストーリー展開も気になる。途中から心霊物に持っていくなら、前半の中途半端なサイコサスペンス風演出は何だったのだろう?どうせやるなら、最初から最後まで観客と作り手の共犯関係を楽しませてくれ。クライマックスの霊界描写もラストの悪魔のデザインも、最悪に想像力欠如。あの「暗闇」が、そこに何も新しい描写を創造できない作り手の「才能の闇」に見えた。

 続いて観賞中の『ラスト・エクソシズム』は、そもそもの着想の面白さ、確かな語り口で半分までは十分面白い。本格的描写が始まるはずのここからが見物と言える。
 最早、冷徹なまでにジャンルを解剖し、研究し尽くした作り手が冷えた感情で作った物の中にしか、面白い作品は存在しないのだろうか?