赤道直下

hellbeyond2005-04-18

東撮前のツタヤで、たまに1〜5年くらい前に発売したCDの中古セールをやる。
タワレコなどでジャケ買いして失敗すると値段的にもかなりの痛手なのだが、ここではシングル以下の値段でアルバムを購入出来るので、最近は新しいお気に入りアーチストとの出会いはこのセールに依存している。つじあやのとか、ここで『バランソ』を買ってよく聞くようになった。
昨日、スタッフルームが気詰まりになってぶらっと立ち寄ると丁度セールが始まったところで、サニーデイサービスが幼稚園でやったライブを収めた『フーチャ−・キス』、学生の頃ajianに借りたソウル・フラワー・ユニオンの『エレクトロ・アジール・バップ』など5枚程買う。


で、早速初聴の川村結花とかいう人のアルバム『LUSH LIFE』を聴くが非常に普通で(声も印象に残らないです)、最終曲まで特に引っ掛かる所なく、これはBGM用CD決定。
でも比屋定篤子なるひとの『ひやじょう』というアルバムはJAZZYで結構ここちよくゆられてしまった。
今朝、DISKMANで前半を聴きながらゆらゆらと仕事場へ。
今日のスタッフルームは監督が入る予定がないと言うことで、ゆったりと時間が流れていた。
時たま美術さんがぶらりとやってきて、取り留めもなく打ち合わせし、TVで『バックドラフト』を流し、ちらちら見つつパソコンを打ち、せっぱつまった状況に対する冗談を言い(ま、不思議なことに今まで切羽詰まらない作品に携わったことがないのですが)、概してそんな一日だった。


7時位になり、ぼちぼちそれぞれ仕事を切り上げ出した頃、演出部チーフが「ウチで鍋やるか、今日のがしたらもう飲める機会もないだろ、忙しくて」の一声を発し、演出部飲みがその場で決定。
チーフは先にバイクで自宅に向かい、僕を含む演出部の下三人はバスで大泉→吉祥寺へと。
久しぶりの吉祥寺。眼鏡を買って以来か。東京に移り住んではじめて吉祥寺に出た時、何でこんなに若い人間が多いのか、と思った。今でも変わらずそう思う。何となく、すれ違う人の顔を半年前別れた彼女に当てはめてしまう。一番良く来た駅だからムリもないか。
ガード下にチーフの車を見つけ、乗り込む。
車は滑り出し、東八街道を直進。三鷹の見覚えのあるT字路を曲がると大きめのサミットの駐車場に停まる。
吃驚する程のクリクリ二重で大柄なチーフ(花粉症でマスクあり)、今回主演のエディソン・チャンそっくりで吹替えの際は絶対真っ先に指名されるセカンドの吉田さん、小柄でエイプ顔のサード安部さん、そして僕。何となく粒の揃わない一同がカートを押し、キムチ鍋の具がポンポンとカゴに放り込まれていく。


買い物袋をいくつもぶらぶらさせて駐車場に戻ると、戦利品を積み、最発進。
車が東八街道に戻って西へ向かいだした時、何となく、本当に何となく想像していたことのベクトルが微かに「現実」に振れる。動悸が強くなる。
チーフの車にはカーナビがついている。自宅も登録してあるのだろう。向かうべき道が赤く真直ぐに示されている。
そのまま道なりに進む。それまで外を見ていた僕の目がカーナビの画面を見る回数が多くなる。
そして、僕が何十回も曲がった交差点が画面内に表示され、当然のように赤い道は僕にとって馴染み深い方向に折れていた。
結局、チーフの住む都営住宅は、前出の彼女の家から500mも離れていない場所だったのだ。
変な偶然である。…あるいはそう珍しいことじゃないのか?
いずれにせよ、僕はこの事象に対し鬱いでいいのか懐かしんでいいのか、そんなことを吟味する間もなく酒が入り、チーフの家では奥さんと子供達が就寝していたので4人で騒がず鍋を囲み、僕の作品を皆で鑑賞し(取り敢えず皆さん面喰らった様子でした)、プレステ2のF1レースゲームをひとしきりやり、終電ギリギリにチーフの家を出た。「お疲れさーん」と僕らを送り出してくれたチーフ。きっとこのあと一人で流しの前に立ち洗い物をするのだろう。ダイニングには、子供達の写真に混じって、奥さんと並んで優しい顔でわらうチーフの写真があった。あんなものをみてしまったら、きっとこの先現場でどんなことがあっても、この人を本当に嫌いにはなれないだろう。サードの安部さんをしきりに「おい猿!」といじるけれど、基本的には優しい人だ。改めてそう思った。


半年程前までは、家まで送った帰りによく電車を待った駅ホームに、今度は吉田さんと安部さんと立つ。
僕一人は吉祥寺で降りる。行き先など確認せずともどの列が大泉行きバスを待っているのかは判る。
ディスクマンを起動し、比屋定篤子のアルバム『ひやじょう』の後半を聴く。後半になるとちょっと悲しげで、メロウな曲が続く。相変わらずゆらゆらする曲調。バスが着く。座れた。何となく眼鏡を外す。
目の前の景色から一気に意味が失われる。
同時に眠くなる。
そういえば…今日はあまりねていなかったのだなあ。


バスが「ブシュ−」って不機嫌そうに息を吐く。目を開けると大泉に着いていた。いつのまにか、CDも終わっていた。
部屋に帰り、パソコンの前に座り、今になっても特に深い感情の動きはない。
それには相変わらず面喰らう。
取り敢えず、僕は今日巡り直した景色を嫌いにはなっていない。それがわかった。
良かった。
何処だって、何となく避けてしまう場所を作ってしまうのは嫌だ。