おそろしい夢
舞台は自宅。ばあちゃんの部屋。
時代劇映画の撮影が進んでいる。自分は助監督サードである。
自分の上にはセカンドとチーフ助監督が居るはずなのだが、顔を見せない。
自分の下には、奇妙なことに弟が見習い助監督フォースとして、いる。
撮影は、侍二人が城の中の居室で悪巧みしながらトランプを使用した花札のようなゲームする、という場面に差し掛かっている。
美術部が俳優の前に広げたトランプを見ると、何と英語のカード(ジャック、クイーン、キング…そして外国製を用意したのか、英語で説明文を記述したカード)が混じっているではないか。作品の設定は江戸時代。まずい。
美術は、何故俳優に渡す前にこれを除けて置かなかったのだろう?助監督が現場でやるだろう、とでも思っているのだろうか?
自分は監督(ばあちゃん)が「ヨーイ」をかける前に英語カードを全て拾うべく、俳優の前に飛び出した。
はいつくばって必死で拾う。
他のスタッフは見ているだけである。
こいつを用意した美術にも拾わせようか?いや、奴が現場に出てきた頃には拾い終わってるだろう。
努めて床の上に広がったカード以外見ないように、手を動かす。
サード助監督として仕事をしていると、上の二人が撮影の輪の外に逃げて、高みの見物をしているという感覚に囚われることがある。弟はその二人と同じ場所に居るのか、現場に出てこない。
現実のそういった場面では、いきおいサードが一人で走り回り、監督に怒られることになる。
ヨーイ!の直前。何とか拾い終わった自分は持ち場に駆け戻る。
ばあちゃんの声で「ヨーイ!」が掛かる。
あ、俺カチンコの仕事もあるんだった!
慌てて現場に駆け戻る自分の足元で、セットに積もった埃が猛然と宙に舞った。
…そのカットは無事撮影。自分が次カットのためにトランプの位置を修正していると…そら来た。監督(ばあちゃん)が怒っている。
「今日は時間がないんだからな!ちゃんと仕事しないようなら、サードもチーフも関係なく、お前ら怒るぞ!」
ってっても、怒られているのは自分である。現に監督(しつこいようだがばあちゃん)は自分のほうを向いて怒鳴っている。
自分は、むしゃくしゃしたままシーバーに怒鳴る。
「(弟に)おい!お前現場に出てこいよ!お前の顔全然みえねえぞ!」
腰を折ってカードを整える自分の耳に、ノイズ混じりの冷たい声が聞こえてきた。
「助監督っていうけどさ、こんな仕事こなせるのは、相手の言うことにハイハイ従う人間だけじゃないの?」
…何も言えない。ぽっかりと胸に穴が開いて、スースー風が通るような心もとない感覚が残る。
しかし悔しくは無い。
それは、現場では口に出さないが、自分が内心思っていることだからである。
…
江戸川乱歩先生、おそろしい夢でした。