〜吸血蚊人間〜

hellbeyond2007-10-22

 最低の邦題/副題でリリースされたB級SF最近の期待株『キラー・モスキート』(『原題MOSQUITOMAN』。こちらも酷い)をレンタル/鑑賞。

 監督は『ハードカバー 黒衣の使者』で寵児となり、長いブランクを開けた後ダカスコスのケレン味アクションだけは楽しめた『サボタージュ』でファンを落胆させたティボー・タカクス。最近は『アイス・スパイダー』やらの異常にクオリティが低いSFを連続で手がけ、個人的には憎しみすら感じる魂の無い野郎である。
 が、洋サイトで鑑賞した本作の予告編には'90年代後期の手抜きなしB級の匂いが強く感じられ、仕事が入っている最中ではあるが一瞬の隙を突いてツタヤの棚を探索してきたという次第である。


 さて、鑑賞後。まず絶対にいえるのは、本作が近年屈指の気合の入ったエフェクトを見せるモンスター映画であるということ。
 バストショット用に作られたリアルサイズの上半身モデルはパーツ過多のデザインが災いし、動かない部位が多いのが目に付く。が、それを補って余りあるのは全身サイズ時に駆使されるCGモデルの動きと粗の少なさ。病院という白けた照明の下で「歩く」「飛び立つ」「振り返る」などの動きにCGを感じさせなかったモデリングの細かさは同趣大作『ミミック』に匹敵する。また、前半に一番の見所があるという意味では問題なのだが、人間→蚊への変身エフェクトはCGと現場で撮影された背景の動きとの連携が相当に上手くいっており、有能なSFX監督の存在が見え隠れ。例えば変身に際してアキレス腱が長く、細くなり(CG処理)、伸びた先にあったイスが押されて動く(現場で処理)という皆が面倒臭がってやらないカットなど普通に存在。細かい仕事さえあれば、CG主体の作品でもモデルアニメのような怪物への愛は作品に織り込めるのである。


 で、本作の捨て置けない問題はというと、矢張り演出なのである。蚊人間誕生の起因に疾病を絡めたり、蚊男と蚊女(to be)の変形ラブストーリーを感じさせ(ようとして忘れてい)るストーリーなど『ミミック』からの明らかなパクリはBなので許容。
 更に場面移動や冗長な人物説明など観客の集中を阻害するシーンを省いたまではOK。
 が、本来必要な最低限の行動原理まで削ぎ落とした結果、感情移入が全く不能な物語に成り下がっているのである。感情移入さえ成されていれば、背後でケーブル操作のラテックス塊を怖がる大根役者だって、地球を救うために絶望的な戦いを決意した英雄に見えるのである。蚊女役で相変わらず白い肌が色っぽいミュセッタ・ヴァンダーが目を真っ赤にして頑張ったって、これでは台無しである。
 怪物を含め登場人物が矢鱈行き当たりばったりな行動を繰り返すのも脚本・演出段階で「行動の目的」がはっきりと設定されていなかったためだ。それを裏付けるように怪物に止めを刺すのは偶然発見した高圧線である。
 蚊人間が蚊玉を纏って出現する、というストーリーに大きな影響はないがリアリティ醸成には非常に大事なビジュアルも、たった1カットだけの使用。何かの見間違いのようにしか思えぬ。
 そういった統一感や見応えという意味では撮影照明や美術は職人的仕事の最高レベルを打ち出しているけども、その更に上にある「ケレン味」に到達するための薄い膜を破れなかったのは、仕事場を離れたら作品のことなど一気に忘れる監督の不甲斐無さゆえである。
 そういう意味で'90年代の『ティックス』『アベレーション』などの作品と本作は一見近親のようで似て非なるものであり、その出自は最近の心の籠らない歪んだB級の中にしかないのだ。
 失望。