CLOSED WARD

hellbeyond2005-06-16

構想中の脚本の参考の為に買っておいて開いていなかった小説『閉鎖病棟』を読む。
帚木蓬生著。傑作である。


近しい人間が神経科に入院した経験のある人間にはかなり刺さる小説ではある。
純文学に出自を持つ作者ながら美文調の文章は見当たらず、ひたすら現実的な描写を重ねていく。
舞台を精神病棟に設定しながら物見高さに終わらなかったのは作者が現役の精神科医でもある(!)からだろう。単純に病棟の日常に起こる「小事件」をピックアップして提示する。
我々埓外者が書いたらどうしたってこうはならないだろう。
執筆前にこれを読んでおいて良かった、と思う。


読後感、言葉少なな作者から僕に伝わった思いは『刑務所のリタ・ヘイワース』のそれと良く似ている。
「籠の中に閉じ込めておけない鳥もいる。鳥が飛び立つ時、見送るもの誰もが少しだけ自由になれる。だが、鳥が去った後の籠は、酷く味気ない」
良い小説を読み終わった後の気分にも当てはまるこのセリフ。
ああ、またこんな傑作を読みたいものだなあ。もしくは、いつか自分のこのような作品を作り上げたいなあ。