a Hen in the Wind

hellbeyond2006-06-26

 今日、生まれて初めて小津安二郎の作品を観た。
 タイトルは『風の中の牝雛(めんどり)』。
 脚本上に著わされた台詞にどこまで忠実に言葉が発されたかは解らないが、復員してきた佐野周二が妻の一夜の売春行為を知り(息子の入院費を払う為だが)、その悩みを同僚に打ち明けるシーンの台詞には久々に言葉の組み合わせによる感動を覚えた。


 「いや、そりゃ俺だって許してるんだよ。しょうがないと思ってるんだよ。だが中々気持ちが落ち着いてくれないんだ。何か燻ってるんだ。苛々するんだ。脂汗が出てくるんだ。良く寝られないんだ。怒鳴ってみたくなるんだ。自分ながらどうにもならないんだ」


 終戦の三年後に作られたこの映画の中の風景を観ていると、今より「廃墟」が多かったのだなあと思う。
 東京大空襲で焼かれたままの講堂の骨組み、月島の川沿いに立ち並ぶ船着き場の廃墟…。「何かが一回終わった」跡に展開する物語だからこそ、小津安二郎の一途で真直ぐな視線がとても清清しい。
 本作では戦後すぐの町の情景カットが度々挟まれる。
 その中にとても印象的な場面がある。
 野原に打ち捨てられた錆び付いた下水管の向こうに歩いている人々が見えるカット。
 丸いもの…日章旗
 その空疎さを曝け出した日本。その旗の意味するところは太陽ではなく、真ん丸に開いた「穴」だった。
 その廃墟を後にし、そこから先へ歩いていく人々。
 映画監督、撮影監督がそこにメッセージを託したかどうかは解らない。
 が、この映画全体が持つ「匂い」から、僕はそうであることを願わずにはいられない。


 と、真面目に締めようかと思ったが、『ブルース・リの復讐』の裏解説が面白すぎることに今読んで気付いたので報告。
 目の保養になるでしょう。