脳内総員配置

hellbeyond2008-05-05

 今回の作品、昭和二十年八月が舞台なのであるが、調べ物がこんなに面白い仕事は初めてである。作品自体の台本の酷さに対する悪感情をあるいは救ってくれるかもしれない。
 例えば、八月に入って佐世保港に入港し、そのまま終戦を迎えた潜水艦の日誌を見た。
 これは複写や採録モノではなく、幸運にも手垢がこびりついた現物のページを繰ることができた。
 日を追って目を送るうち、八月十五日の経過報告を読んだ自分は絶句した。


 八月十五日
0530 総員起床
0600 第一課業始メ
0700 第一課業
07


 ここで記述が終わっているのである。あるいは詔書を聞かされるために呼び出されたのだろうか。そのページに残された空間の意味を考えると、頭がくらくらする。その白は、そのまま記入者の心に開いた空間だったのではないか。
 しかし翌十六日には出撃準備をしている。きっと、みんな戦争が終わったということを認識できなかったのだろう。しかし更に翌十七日の記述を見て笑った。


2200 宴会始メ


 宴会ですか!翌日は朝一から宴会の片づけをしている。


 八月二十日
0800 第二課業始メ(身廻整理)
2200 甲板ノ掃除


 終戦の五日後にもなるとだんだんと現実的な「終戦」が形になってくる。


 八月二十四日
0500 総員起床
0510 第一課業始メ(艦内清掃)
0610 第一課業止メ
0630 食事


 これが最後の記述である。
 自分たちが生死を共にした潜水艦を降りるとき、彼らはどんな気持ちだったのだろう?
 何回も、血豆が出来るほど回した高圧空気バルブを撫でただろうか。
 潜航中に誤って使うと逆流/噴出する便所をいま一度、最後に使っただろうか。


 ・・・自分が作りたい「戦争映画」の形が、一瞬見えた気がする。