ほら、虎がいる

hellbeyond2009-11-17

 人形をテーマにした短編ホラー脚本を書きながら、自分の怪奇嗜好について一考。
 『キンドレッド』(’87)というミュータントホラーがある。ビデオというメディアがレンタル店から姿を消した現在では、もはや中古ビデオ店のホラーコーナーに求めるしかないような一本。小学生当時の自分は、この作品が大好きだった。藤沢銀座通りの一角、現在ではラーメン屋・花月になってしまったテナントに、かつて個人レンタルビデオ店が存在しており、その店のホラーコーナーにこの作品は鎮座していた。胎児を思わせる怪物の写真が大きく印刷された黒っぽいその背表紙に、なんとなく忌まわしいものを感じて借りずにいた作品だったのだが(今思えば、それはホラー作品のジャケットとしては大正解である)自分の嗜好を知っていた父が仕事帰りに借りてきてくれ、思わぬところで鑑賞の機会を得たのだった。
 冒頭で、人間と海洋生物を掛け合わせた新種を製造することに命を掛けた女生物学者が死ぬ。その遺産整理にやってきた息子に屋敷に巣食うミュータントが襲い掛かる。この屋敷の地下には洞穴があり、そこに魔物の本体(心臓)が蠢いていたことが後半わかるのだが、この「家の下に実は」というシチュエーションが、最も端的に自分の趣味を説明してくれる。
 マイ・フェイバリット作品『魔獣伝説 ザ・セラー』にも家の地下室に魔獣が潜んでいるし、『IT』では現実と地続きの怪異が全編に展開する。文字通り「現実を歪めて」ピエロが侵入してくる学校のシャワー室のシーンは特にお気に入り(であり、怖かった)。
 安全な場所=主人公たちのテリトリーに隣接した場所に異界が潜んでいる―言い換えれば、主人公たちの日常のサイクルの中に、異界と接する時間がいつの間にか紛れ込む、という不安感。
 少年時代の自分が日々感じていた不安を投影するのには、恐らくそういった日常に根ざした作品たちが適していたのだろう。
 今でも自分が鑑賞したいと思うのは、誰にも気づかれず、日常にずっと存在していた怪異についての物語である。